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危機発生時における従業員家族へのコミュニケーション実務:広報部門の役割と伝えるべき内容

Tags: クライシスコミュニケーション, 社内コミュニケーション, 従業員家族, 広報実務, 危機対応

危機発生時における従業員家族へのコミュニケーションの重要性

危機発生時、広報部門は多様なステークホルダーへの対応に追われます。メディア、顧客、株主、取引先などへの情報開示や説明責任は喫緊の課題です。しかし、忘れてはならない重要なステークホルダーとして、「従業員とその家族」が存在します。

従業員は危機対応の最前線に立つことが多く、大きな精神的・肉体的負担を伴います。その従業員を支える家族もまた、メディア報道や社内からの情報不足によって、会社や従業員の状況に対して不安や懸念を抱える可能性があります。従業員家族への適切なコミュニケーションは、単に福利厚生の一環というだけでなく、危機対応全体の成功、ひいては信頼回復プロセスにおいて極めて重要な意味を持ちます。

従業員家族への丁寧なコミュニケーションは、以下の点で貢献します。

広報部門が担うべき役割

危機発生時における従業員家族へのコミュニケーションにおいて、広報部門は中心的な役割を担います。その実務は多岐にわたります。

  1. 情報収集と整理: 経営層、危機対策本部、法務、人事、現場部門などから、従業員やその家族に伝えるべき情報を正確かつ網羅的に収集します。専門的な内容を、家族にも理解できるよう平易な言葉で整理します。
  2. メッセージの作成: 伝えるべき内容に基づき、正直かつ丁寧なメッセージを作成します。不安に寄り添い、会社としてどのように対応しているのか、従業員をどのようにサポートするのかを明確に伝えます。専門用語を避け、分かりやすい表現を心がけます。
  3. 伝達チャネルの検討と整備: 従業員家族へ情報を届けるための最適なチャネルを検討し、必要に応じて整備します。複数のチャネルを組み合わせることも効果的です。
  4. FAQの作成と更新: 想定される家族からの質問に対する回答集(FAQ)を作成し、状況の変化に応じて迅速に更新します。
  5. 相談窓口の設置・周知の協力: 家族からの個別の問い合わせや相談に対応するための窓口(人事部門や産業医との連携など)の設置を支援し、その存在を周知します。

従業員家族に伝えるべき内容

伝えるべき情報は、危機の種類や状況によって異なりますが、一般的には以下の要素を含めることが重要です。

伝達チャネルの選択と実務上の考慮事項

従業員家族への情報伝達には、いくつかのチャネルが考えられます。それぞれの特性を踏まえ、状況や伝えたい情報に応じて適切に選択・組み合わせます。

実務上の考慮事項として、以下の点が挙げられます。

具体的なメッセージ表現例

以下に、従業員家族向けのメッセージにおける表現のポイントを匿名化された例として示します。

(冒頭部分の例) 「この度、弊社におきまして、〇〇に関する問題が発生し、皆様には多大なるご心配をおかけしております。特に、現場で対応にあたっている従業員、そしてそれを支えてくださるご家族の皆様には、心より感謝申し上げますとともに、ご不安な日々をお過ごしのことと存じます。」

(状況説明の例) 「現在、弊社では事実関係の調査を進めており、原因究明と再発防止に向けた対策を講じております。従業員の安全確保と健康管理を最優先に考え、必要な措置を講じております。」

(従業員への支援策の例) 「危機対応に従事する従業員に対しては、特別体制を敷き、休息時間の確保や、心身の負担を軽減するためのサポート(例:産業医面談、カウンセリング窓口の設置など)を提供しております。ご家族の皆様におかれましても、ご本人を温かく支えていただけますようお願い申し上げます。」

(情報提供と窓口の案内例) 「今後の状況進展につきましては、引き続き、〇〇(例:社内イントラネットの特設ページ、従業員向けメールなど)にてご報告させていただきます。また、ご不明な点やご心配な点がございましたら、遠慮なく〇〇(例:人事部、専用相談窓口など)までお問い合わせください。」

まとめ

危機発生時における従業員家族へのコミュニケーションは、組織全体の信頼回復において見過ごせない要素です。広報部門が中心となり、正確な情報に基づいた丁寧なコミュニケーションを継続的に行うことで、従業員の安心感を高め、組織への信頼感を醸成し、結果として企業が危機を乗り越える力を下支えすることに繋がります。この重要なステークホルダーへの配慮が、長期的な企業価値向上にも貢献するものと考えられます。