危機発生時における従業員のSNS利用と情報漏洩リスクへの対応実務
危機発生時における従業員のSNS利用と情報漏洩リスクへの対応実務
危機発生時、組織の信頼回復に向けた対外的なコミュニケーションに注力することは重要です。しかし、同時に見落としてはならないのが、組織内部、特に従業員からの情報漏洩や不適切なSNS投稿が引き起こす新たなリスクです。意図的か非意図的かを問わず、従業員の不用意な発信は、危機対応 efforts を大きく損なう可能性を秘めています。本稿では、危機発生時における従業員起因のリスクとその管理、そして広報部門が果たすべき役割について解説します。
危機発生時における従業員起因リスクの種類
危機発生時、従業員が引き起こしうる主なリスクは以下の通りです。
- 非意図的な情報漏洩:
- 社内情報や対応状況に関する不正確な情報や推測を、知人に話す、あるいは個人的なSNSアカウントで発信する。
- 企業の公式発表前の情報を漏洩させる。
- 現場で知り得たセンシティブな情報(被害状況、社内の混乱など)を外部に伝える。
- 不適切なSNS投稿:
- 危機に関連する不謹慎なジョークや個人的な感情的な投稿。
- 被害者や関係者への配慮を欠く表現。
- 会社の公式発表と異なる見解や批判の発信。
- 内部の混乱状況や従業員の個人的な不満を露呈する投稿。
- 意図的な情報漏洩/内部告発:
- 組織への不満や悪意から、危機に関する情報を意図的に外部メディアやSNSに暴露する。
- 内部の不正や問題を告発する行為(公益通報者保護制度との関連も考慮が必要)。
- 風評被害への加担:
- 外部で拡散されている不確かな情報やデマを、確認せずに個人的なアカウントで拡散してしまう。
- 批判的な意見やネガティブな感情的なコメントに同調し、火に油を注ぐ行為。
これらのリスクは、事態の沈静化を遅らせ、組織の信頼をさらに失墜させる要因となり得ます。
リスクを最小限に抑えるための事前の備え
危機発生時の従業員起因リスクは、事前の準備である程度軽減することが可能です。
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SNS利用および情報管理に関する明確なポリシーの策定と周知徹底:
- 就業規則や情報セキュリティポリシー、ソーシャルメディアポリシーなどに、危機発生時を含む情報取り扱いに関するルールを明確に定めます。
- SNSでの情報発信に関するガイドライン(守秘義務、プライベートと仕事の区別、個人アカウントでも会社への影響を考慮することなど)を具体的に示します。
- これらのポリシーは、入社時研修や定期的な研修を通じて全従業員に周知徹底することが不可欠です。従業員が内容を理解し、遵守することの重要性を認識してもらうための丁寧な説明が必要です。
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従業員向け危機対応マニュアルへの組み込み:
- 組織全体の危機対応マニュアルの中に、従業員一人ひとりが危機発生時にどのように行動すべきか、情報発信に関してどのような制限があるかを明記します。
- 「公式発表以外の情報を外部に伝えない」「憶測や未確認の情報を拡散しない」「個人のSNSであっても、会社や関係者を傷つける可能性のある投稿は控える」といった具体的な行動指針を含めます。
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定期的な研修・訓練の実施:
- 情報セキュリティ研修やコンプライアンス研修の一環として、SNSリスクに関する内容を盛り込みます。
- 危機対応訓練を実施する際に、従業員の情報発信に関するロールプレイングやケーススタディを取り入れることも有効です。
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社内コミュニケーションチャネルの整備:
- 危機発生時に会社が従業員に対して正確かつ迅速な情報を伝達できるチャネル(社内ポータル、メーリングリスト、ビジネスチャットツールなど)を整備します。
- 従業員が不安や疑問を感じた際に、信頼できる情報にアクセスできる、あるいは質問できる窓口を明確にします。
危機発生時の初動対応とコミュニケーション戦略
実際に従業員による情報漏洩や不適切な投稿が発生した場合、広報部門は迅速かつ慎重に対応する必要があります。
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早期発見と事実確認:
- ソーシャルリスニングツールや社内からの報告により、従業員による不適切な発信の兆候を早期に発見します。
- 問題の投稿や情報漏洩の事実を確認します。投稿内容、発信元(対象従業員)、発信されたチャネル、拡散状況などを正確に把握します。
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対象従業員への対応:
- 事実確認ができた場合、該当従業員に対して、広報部門または人事部門が個別に接触します。
- 投稿や情報発信の意図、経緯を確認し、ポリシーに違反している可能性や、組織に与える影響について冷静に説明します。
- 必要に応じて、投稿の削除や訂正を依頼します。この際、高圧的な態度ではなく、組織の一員として協力をお願いする姿勢が重要です。
- 社内規定に基づいた disciplinary action(懲戒処分など)を検討する場合は、人事部門と連携し、法務部門の確認を得て慎重に進めます。感情的な対応は避け、客観的な事実と規定に基づいて判断します。
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社内全体への情報伝達:
- 特定の従業員の問題だけでなく、危機発生時は社内全体に対して改めて情報発信に関する注意喚起を行います。
- 公式な情報伝達ルート(社内ポータル、全体メールなど)を通じて、現在の状況、公式に発表されている情報、そして従業員一人ひとりが情報発信に関して注意すべき事項(未確認情報の拡散防止、不用意な個人的意見の表明を控えるなど)を伝えます。
- 「正確な情報は会社から発信されるので、それを参照してほしい」「不確かな情報に惑わされず、冷静な対応をお願いする」といったメッセージを含めることが効果的です。
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法務・人事部門との連携:
- 情報漏洩や不適切な投稿が、法的な問題(名誉毀損、プライバシー侵害、営業秘密の漏洩など)に発展する可能性がある場合は、速やかに法務部門と連携し、対応を協議します。
- 従業員への対応方針、処分等については、人事部門と緊密に連携し、社内規定に基づいた適正な手続きを踏みます。
再発防止と継続的な取り組み
一度問題が発生した場合でも、それを教訓として再発防止策を講じることが重要です。
- 問題のケースを分析し、ポリシーや研修内容の見直しを行います。
- 従業員が情報発信に関する判断に迷った場合に相談できる窓口(広報部門やコンプライアンス部門など)を改めて周知します。
- 社内コミュニケーションを活性化させ、従業員が孤立せず、会社の公式情報にアクセスしやすい環境を維持することが、不確かな情報源に頼るリスクを減らします。
まとめ
危機発生時における従業員のSNS利用や情報漏洩リスクへの対応は、広報部門の重要な業務の一つです。事前のポリシー策定と周知、従業員への継続的な研修に加え、有事の際の早期発見と事実確認、そして対象従業員への慎重かつ適切な対応、社内全体への情報伝達が求められます。法務部門や人事部門との緊密な連携も不可欠となります。
従業員一人ひとりが状況を正しく理解し、責任ある行動をとることが、組織全体の信頼回復 efforts を下支えします。従業員を単なる管理対象と見なすのではなく、危機を共に乗り越える「仲間」として、丁寧なコミュニケーションと理解促進に努める姿勢が不可欠となります。これにより、対外的な信頼回復の強固な基盤が構築されることに繋がります。