危機発生時における報道機関とのコミュニケーション実務:信頼を維持・回復させるメディア対応
危機発生時における報道機関対応の重要性
危機が発生した際、報道機関は事実関係の確認や原因、影響など、様々な情報を迅速に求めます。この時の報道機関への対応は、企業の信頼性に直接影響を与え、その後の信頼回復プロセスを大きく左右します。不正確な情報、遅れた対応、不誠実な態度は、憶測や不信感を招き、状況をさらに悪化させる可能性があります。
一方で、正確で迅速、そして誠実なコミュニケーションを心がけることは、混乱を最小限に抑え、事実に基づいた報道を促し、ひいてはステークホルダーからの信頼を維持・回復させるための重要な一歩となります。広報部門にとって、報道機関との適切な関係構築と、有事における具体的なコミュニケーション戦略は、避けて通れない課題と言えます。
報道機関とのコミュニケーションの原則
危機発生時における報道機関とのコミュニケーションにおいては、以下の原則を常に意識する必要があります。
- 正確性(Accuracy): 事実に基づいた正確な情報のみを提供します。不確かな情報は発信せず、確認が取れるまで待つ姿勢も重要です。
- 迅速性(Timeliness): 状況が許す限り、迅速に対応します。情報公開が遅れるほど、憶測やデマが広がるリスクが高まります。
- 透明性(Transparency): 可能な範囲で正直かつオープンな情報提供を心がけます。隠蔽やごまかしは、後々より大きな不信感を生む原因となります。
- 一貫性(Consistency): 提供する情報やメッセージに一貫性を持たせます。社内の情報共有を徹底し、誰が対応しても同じ回答ができるように準備します。
危機発生初期のメディア対応フロー
危機発生の第一報を受けた後、広報部門は以下のステップで報道機関への対応を進めることが一般的です。
- 情報収集と事実確認: 危機対策本部や関係部門と連携し、発生した事象に関する情報を可能な限り迅速かつ正確に収集します。広報部門は、メディアからの問い合わせを想定し、どのような情報が必要とされそうかを事前に検討します。
- 初動情報の整理とプレスリリース準備: 現時点で確認できた事実、企業の対応方針(調査開始、対策検討など)、今後の情報提供の予定などを整理します。速報性が求められる場合は、確認できた範囲で第一次のプレスリリースを作成し、発表準備を進めます。
- 報道機関への情報提供: プレスリリース発表、記者会見設定、報道機関からの問い合わせ対応など、状況に応じて適切な手段で情報を提供します。問い合わせが殺到する可能性があるため、対応窓口を明確にし、体制を構築します。
- メディアのモニタリング: 報道状況を継続的にモニタリングし、自社に関する報道内容、論調、誤報の有無などを確認します。
報道機関からの問い合わせ対応実務
危機発生時、広報部門には報道機関からの問い合わせが殺到することが予想されます。効果的に対応するためのポイントは以下の通りです。
- 窓口の一元化: 問い合わせ窓口を広報部門に一本化し、担当者を明確にします。これにより、情報の混乱や対応漏れを防ぎます。
- 対応フローの確立: 問い合わせの受け付け、担当部署への事実確認依頼、回答内容の検討・承認、報道機関への回答という一連のフローを事前に定めておきます。
- 想定問答集の作成: 報道機関から想定される質問とそれに対する回答案をリストアップした想定問答集を作成します。これにより、迅速かつ一貫性のある対応が可能になります。事実が確認できていない質問に対しては、「現在確認中です」「詳細が分かり次第、改めてご報告します」など、正直かつ誠実に対応します。
- 複数担当者による対応体制: 一人の担当者に負荷が集中しないよう、複数の担当者で対応できる体制を整えます。それぞれの担当者が対応履歴を共有することも重要です。
- 回答の記録: いつ、どの報道機関から、どのような問い合わせがあり、どのように回答したかを詳細に記録します。これは後の検証や再発防止に役立ちます。
実務チェックポイント:報道機関からの問い合わせ対応
- 問い合わせ窓口は明確か?
- 問い合わせ対応フローは確立されているか?
- 想定問答集は最新の情報に基づいて作成されているか?
- 担当者間で情報と対応状況は共有されているか?
- 全ての問い合わせと回答内容は記録されているか?
- 事実確認には誰が責任を持つか明確か?
記者会見以外のメディアコミュニケーション手段
記者会見は重要な手段ですが、状況によっては他のコミュニケーション手段も有効です。
- 個別取材: 特定の報道機関からの詳細な取材要請に応じる場合、取材の目的、聞かれる内容を事前に確認し、準備を十分に行います。誰が、何を話すかを事前に決定し、想定問答も共有します。
- 書面での回答: 複雑な質問や、事実関係の整理に時間を要する場合など、書面での回答が適切な場合があります。回答内容には誤解が生じないよう、明確かつ簡潔な表現を心がけます。
- ブリーフィング: 必要に応じて、複数の報道機関を対象とした非公式な説明会(ブリーフィング)を実施することも考えられます。記者会見ほどフォーマルではない形式で、背景情報などを共有する際に有効な場合があります。
- オフレコ対応: オフレコ(公にしないことを前提とした情報提供)は、報道機関との信頼関係に基づいて行われますが、情報管理のリスクも伴います。原則としては、オフレコでの情報提供は慎重に判断し、どうしても必要な場合に限定することが望ましいとされます。安易なオフレコは、かえって不信感を招く可能性もあります。
報道内容のモニタリングと誤報への対応
報道機関に情報を提供した後も、その報道内容を継続的にモニタリングすることが重要です。誤報や事実に反する報道を発見した場合、速やかに事実確認を行い、報道機関に対して訂正や反論を求める必要があります。この際も、感情的にならず、正確な情報と根拠を示して冷静に対応することが求められます。
信頼構築のための継続的な関係性維持
危機発生時のみならず、平時からの報道機関との良好な関係構築が、有事におけるスムーズなコミュニケーションの基盤となります。日頃から広報担当者と記者の間で適切なコミュニケーションを図り、企業の事業や取り組みへの理解を深めてもらう努力は、信頼関係の構築に繋がります。
まとめ:適切なメディア対応が信頼回復を加速させる
危機発生時における報道機関とのコミュニケーションは、企業の信頼回復プロセスにおいて極めて重要な要素です。正確性、迅速性、透明性、一貫性といった原則に基づき、情報収集、プレスリリース、問い合わせ対応、報道モニタリングといった一連の実務を適切に進めることが求められます。
報道機関との誠実で建設的な対話を通じて、企業は事実を正確に伝え、社会からの理解を得る機会を作り出します。これは、表面的な沈静化にとどまらず、失われた信頼を長期的に回復させていくための確固たる土台となるものです。適切なメディア対応の実践は、広報部門が危機対応において果たすべき重要な役割の一つと言えます。