危機対応における外部専門家との連携:法務・コンサルタント・技術専門家との協働実務
危機対応における外部専門家活用の重要性
企業に危機が発生した際、広報部門は事態の収束と信頼回復に向けたコミュニケーションの中核を担います。しかし、危機の内容によっては、法的な判断、専門的な技術分析、高度な戦略的アドバイスなど、広報部門単独では対応が困難な領域が生じます。このような状況において、外部専門家との適切な連携は、危機対応の効果とスピードを飛躍的に向上させ、二次被害の発生リスクを低減するために不可欠となります。
連携すべき主な外部専門家とその役割
危機の内容に応じて連携すべき専門家は異なりますが、ここでは代表的な専門家とその役割について解説します。
1. 弁護士(法務専門家)
- 役割: 法的な観点からの助言、法的リスクの評価、法的手続きへの対応、被害者対応における法的側面のアドバイス、声明文や記者会見内容のリーガルチェック。
- 連携が必要なケース: 法令違反の可能性がある場合、損害賠償請求が予想される場合、訴訟リスクがある場合、個人情報漏洩などプライバシー侵害が関連する場合。
2. 危機管理コンサルタント
- 役割: 危機対応全体の戦略立案サポート、メディア対応戦略のアドバイス、ステークホルダー分析、シミュレーション訓練の実施、社内体制構築への助言。
- 連携が必要なケース: 複雑な危機で対応方針が定まらない場合、過去に類似事例の経験がない場合、社内リソースやノウハウが不足している場合、客観的な視点からのアドバイスが必要な場合。
3. 技術専門家(ITセキュリティ、製品技術、環境など)
- 役割: 危機発生原因の技術的な究明、技術的対策の評価、再発防止策に関する技術的実現性の判断、専門性の高い情報を平易に説明するためのサポート。
- 連携が必要なケース: システム障害、情報漏洩、製品事故、工場事故、環境汚染など、技術的な原因究明や専門知識に基づく説明が不可欠な場合。
その他、広報戦略やメディア対応に特化したPRコンサルタント、心理的なケアに関する専門家(特に痛ましい事故の場合など)と連携が必要になる場合もあります。
効果的な連携のための実務
外部専門家との連携を成功させるためには、以下の実務的なポイントを意識することが重要です。
1. 専門家選定のポイント
- 専門性: 発生した危機の内容に合致した専門知識と経験を有しているか。
- 危機管理経験: 平常時の業務だけでなく、危機対応における実績や知見があるか。
- 信頼性: 秘密保持を徹底できるか、企業の利益を最優先に考えられるか、過去の評判はどうか。
- 連携体制: 企業側の担当者と密にコミュニケーションを取り、迅速に対応できる体制か。
2. 役割分担と責任範囲の明確化
危機対応チーム内で、どの専門家がどのような役割を担い、どこまでの責任を負うのかを事前に明確に合意します。広報部門はコミュニケーション戦略と実行を主導しますが、法的な判断は弁護士に、技術的な原因究明は技術専門家に依頼するなど、専門性を尊重した役割分担が必要です。
3. 情報共有とコミュニケーション頻度
外部専門家には、関連する全ての情報を正確かつタイムリーに提供する必要があります。状況は刻一刻と変化するため、定期的な状況共有会議を設定したり、緊急時の連絡体制を確立したりするなど、密なコミュニケーションを維持します。
4. 報告ラインと意思決定プロセス
誰が外部専門家からの報告を受け、誰が専門家の意見を踏まえた最終的な意思決定を行うのか、報告ラインと意思決定プロセスを明確にしておきます。広報部門は専門家の意見を経営層や危機対応チーム全体に適切に伝える役割を担います。
5. 連携時の注意点
- 情報の取り扱い: 機密情報や未確定情報を含むケースが多いため、情報漏洩を防ぐための秘密保持契約の締結や情報管理体制の構築が必須です。
- 指示系統の統一: 複数の専門家から異なる意見が出た場合、企業の公式見解としてどれを採用し、どのように外部に伝えるか、必ず危機対応チームで一本化した上で対応します。専門家からの意見をそのまま無許可で公表することは避けるべきです。
- コスト管理: 外部専門家への報酬や費用について、契約時に明確に取り決め、予算管理を行います。
事例に学ぶ連携の重要性
事例:システム障害発生時の技術専門家との連携(匿名化)
ある企業で大規模なシステム障害が発生し、サービスが長時間停止しました。広報部門は復旧見込みや原因について速やかに情報発信する必要がありましたが、社内のIT部門だけでは原因特定に時間を要し、外部への明確な説明が難しい状況でした。
この企業は、迅速に外部のセキュリティ専門家とフォレンジック調査専門家と契約し、原因究明を依頼しました。専門家は高度な技術を用いて短期間で原因を特定し、その技術的な詳細と対策について、広報担当者にも理解できる言葉で丁寧に説明しました。
広報部門は、専門家からの情報を基に、「外部の専門家と協力して原因究明を進めていること」「専門家により〇〇が原因と特定されたこと」「再発防止に向けた技術的な対策として〇〇を実施していること」などを具体的な言葉で外部に説明することが可能になりました。これにより、単に「原因調査中」と伝えるよりも、透明性と専門性を示すことができ、顧客や関係者からの信頼維持に繋がりました。
事例:製品事故における法務・技術・広報連携(匿名化)
ある製造業で製品の安全性に関わる重大な事故が発生しました。このケースでは、原因が技術的な問題である可能性に加え、法的責任の追及や、既に製品を使用している顧客への注意喚起といった複雑な対応が必要となりました。
危機対応チームは、社内技術部門に加え、外部の製品安全に関する技術専門家、そしてリスクマネジメントに強い弁護士を招集しました。技術専門家は製品の構造や使用状況を分析し、事故原因の技術的な側面を調査しました。弁護士は、考えられる法的リスク、製造物責任、顧客への情報提供義務などについて法的な観点から助言を行いました。
広報部門は、これらの専門家と緊密に連携し、技術的な調査状況、法的リスクの評価を踏まえた上で、顧客へ向けた製品使用中止の呼びかけ、回収方法の説明、そして再発防止策の検討状況について、正確かつ誤解のない表現で情報を発信しました。技術専門家からは、難しい技術内容を分かりやすく伝えるための助言を受け、弁護士からは、法的リスクを高めない表現についてチェックを受けました。このように、各専門分野の知見を結集することで、広報部門は責任ある、信頼性の高いコミュニケーションを展開することができました。
まとめ
危機発生時における外部専門家との連携は、単に知識やリソースを補うだけでなく、対応の正当性、専門性、そして迅速性を確保するために不可欠です。特に法務、危機管理コンサルタント、技術専門家といった外部リソースとの効果的な協働は、複雑化する現代の危機において、企業が信頼を回復し、持続的な成長を図るための重要な戦略と言えます。広報部門は、これらの専門家を適切に選定し、明確な役割分担のもと、密な情報共有と連携体制を築くことが求められます。事前の体制構築や専門家リストの準備も、有事の際に迅速な連携を開始するための重要なステップとなります。